ダンスカンパニーMi-Mi-Bi『島ゞノ舞ゝゝ』レビュー
独立しつつ混交する島の時間の豊かさを体現
文:竹田真理
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写真: 撮影 igaki photo studio | 画像提供 豊岡演劇祭実行委員会
Mi-Mi-Biの旗揚げ以来、2作目にあたる本作のテーマは「島」。独立した地形と固有の文化をもちながら相互に交通・混交する島々のイメージを、人の身体と集団のありように重ねている。障害のある人、ない人、障害のあり方も異なるMi-Mi-Biのダンサーたちが、各々の生きる技法や世界に対する眼差しをもって舞台に立つと、列島や群島のような「景」が立ちあがる。
設営された張り出し舞台に3人のダンサーが歩み出て来る冒頭のシーンは象徴的だ。福角幸子さんの強張る手に、森田かずよさんの手が重ねられ、さらにKAZUKIさんの手が上から包み込む。他人には見えない障害のある「も」さん、手話通訳士の三田宏美さん、ダンサーの内田結花さんの存在も、集団において固有でありつつ共にあることの可能性を問うている。
身体の水平な関係性に加えて、今作には縦に流れる時間が織り込まれた。遠くへ旅立っていったメンバーと、新たに迎えたゲスト・ダンサー、その不在、記憶、循環がサブ・テーマである。ゲストの米原幸さんがマレビトとして島々を訪れ、はじけるようなグルーブでカンパニーに新鮮な生命感をもたらす。Mi-Mi-Biのダンサーたちは、花、草木、鳥などをモチーフとしたオリジナルの衣装(デザイン/制作・福岡まな実)を身に着け、島の自然や風土を思わせながら懐深く来訪者を迎える。森田・内田の共同による演出は根底に明るさがあり、衣装と相まって舞台はひょっこりひょうたん島のような寓話的な性格も帯びる。
各シーンで個々のダンサーの演技が光る。手話パフォーマーのKAZUKIさんの天変地異を語るような雄弁な手の動き。踊らない出演者「も」さんは、舞台上でコーヒーを淹れる。野点のような儀礼や死者への供養に通じる行為は舞台上のリアルな行為=パフォーマンスでもある。後方ではダンサーたちが盆踊りのような動きを見せ、現実の行為の時間と古来の踊りの時間が同時に現れる上演芸術の妙を感じさせた。
昔話に託した逝去したメンバーへの追想や、地面を強く踏んで音をたてるといった強い感情の表出は、故人へのやむにやまれぬ哀悼の表現といえるが、地を踏むとは、踊りの原初の形でもあり、言葉にできない喪失の大きさがダンスの形を借りてあふれ出たものと言っていいのだろう。
この意味で、福角幸子さんの麻痺を抱えた身体から絞り出される「ヤー ヤヤ ヤ」の声は、誰よりも深い喪失の中から発された、渾身の「魂のうた」と言えるものだった。幸子さんの音頭に客席の拍手も含め皆が歌と踊りで加わった“島々の唄”は、循環する時間を現在に更新し、カンパニーを外へと開く可能性に満ちている。
執筆者プロフィール
竹田真理/ダンス批評
東京都出身、神戸市在住、関西を拠点に批評活動を行う。毎日新聞大阪本社版、国際演劇評論家協会日本センター発行「シアターアーツ」ほか一般紙、専門誌、ウエブ媒体等に執筆。ダンスを社会の動向に照らして考察することに力を注ぐ。
障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクトです。2019年に神戸市長田区で劇場を運営するNPO法人DANCE BOXにより始動しました。舞台芸術を軸に、誰もが豊かに暮らし、芸術文化を楽しみ、表現に向かい合うことのできる社会をめざす、多角的な芸術文化創造活動です。