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レポート|障がい者のパフォーミング・アーツの現在とこれから

2019.08.03

2019年8月3日(土)
出演:森田かずよ(義足のダンサー)
   長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院助教)
   大谷燠(NPO法人DANCE BOX)

 

前半は、森田かずよによるソロダンス『アルクアシタ』の上演。
2012年、奈良県障害者芸術祭・鹿の劇場で初演された、森田さんのソロダンス作品です。

 

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ダンスの上演に続いて、長津結一郎さんによるレクチャー。

長津さんは著書『舞台の上の障害者』のなかで、1章を使って森田さんへのインタビューを掲載しています。レクチャーでは自身の活動と、障がい者とパフォーミングアーツの関わりを1970年代からの流れを踏まえて話されました。

 

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2017年に定められた文化芸術基本法では、劇場は文化拠点であるとともに、「全ての国民が…社会参加の機会を開く社会包摂の機能を有する基盤として、常に活力ある社会を構築するための大きな役割を担っている」と定めました。また、2018年には「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」も施行。長津さんは、これらの法によって「障害者による文化芸術活動」を単純に推し進めることの危険性も指摘されました。

 

長津 障がい者とそうでない人と言うとき、何のことを言っているのか。“障がいのある人の作品だからすばらしい、広めましょう”とやっていくのは違うのではないでしょうか。障がいのある人が舞台に上がっただけで拍手をする、それも大事なことですが、生身の現実がフィクションとして現れることで、たとえば、観客が思っていた障がい者像の変容が促されます。いろんな多様性のなかで互いを尊重すること、人と人が出会っていくなかで、考え方や関係性が変わっていく。その結果、本人が当初やろうと思っていたこととは違うことが作品になっていきます。いろんな人が関わるからこそ視点が変わり、そうして多様な視点を取り入れることで、新たな芸術のあり方が創造できるのではないかと思います。ただ発表されるものが作品というだけでなく、それを取り巻くプロセスや発表される状況などのコンテクストも重要で。そうして関わる人が変化したり、作品やジャンルまでもが変化していくかもしれません。

 

10分の休憩をはさんで、森田さん、長津さんによる対談。進行は、DANCE BOXの大谷燠が務めました。まず、森田さんがダンスをはじめたキッカケやこれまでの制作について紹介。

 

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森田 私が歩きはじめたのは3歳頃ですごく遅かったです。同じ障がいのある友達も幼少期に歩く訓練をしたそうです。将来的に必ず車椅子に乗ることになるけど、歩かせたいと思うのは親なんですね。
歩けないということはどういうことなんでしょう。私は今、義足をはめていますが、今日の作品を上演している中で一度はずしました。家のなかでもはずしています。義足によって私の体は大きく変わります。みなさんは二足歩行で歩くのが普通ですが、義足をはずした私は膝で歩いたりします。私には選択肢がたくさんあります。人にとって、そこまで「歩く」ことが憧れなのかなというところから生まれたのが「アルクアシタ」という作品です。来年のパラリンピックを控えて、障がいのある人のダンスの機会は増えていますが、森田さんには「わかりやすいダンス」しか求められてないような実感があるそうです。制作の現場でも、その人の中にあるものを引き出すのではなく、健常者のただ真似をさせるようなダンスも多く、身体を通して学ぶ場所をつくるといった事例はあまり見られません。そんななか、森田さんの活動はとても貴重なものだと長津さん、大谷さんは指摘します。

長津 きらきらとした障がい者とやっていれば「共生社会」だと思われがちですが、もっと実際はまさに「ぐちゃぐちゃのゴチャゴチャ」。だから、わかりやすさに居座るのではなく、たとえすぐに解釈できないものだったとしても一度立ち止まったり、制作の現場でもひたすら待つことが大事です。

大谷 僕がよく言ってるのは、青空が見えるカオスをつくりたいということ。アートや障がいの社会的包摂を国レベルではなく、もっと小さな単位で考えて実践できたら。

 

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その後、会場からの質疑応答。

オリンピック・パラリンピック以降、10年後にどうなっていれば理想的なのか、そこまで見据えて活動していきたいという話で、この日の公開講座は終了しました。

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こんにちは、共生社会とは

障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクトです。2019年に神戸市長田区で劇場を運営するNPO法人DANCE BOXにより始動しました。舞台芸術を軸に、誰もが豊かに暮らし、芸術文化を楽しみ、表現に向かい合うことのできる社会をめざす、多角的な芸術文化創造活動です。

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