出演
新人Hソケリッサ![ワタナベヨシハル、西篤近、横内真人、山下幸治、こいそのふなばんまつ、平川収一郎、伊藤春夫、アオキ裕キ]
ワークショップ参加者[かっしー、Lee、合原知幸、牧野史和、指原茂美、なかおかずお、大歳芽里、福永ゆみ、さかいみすず、すぎ、的場聡子、高木ちえこ、えとうまちこ、米澤もな]
上田假奈代(詩人/ココルーム)
首藤義敬(はっぴーの家ろっけん)
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路上生活経験者によるダンスグループ、ソケリッサが2日間にわたってワークショップを開催。ワークショップの参加者は、宮崎、大分、東京、千葉…と各地から集いました。ワークショップの成果発表となるショーイングの直前には、ソケリッサの面々が「はっぴーの家ろっけん」へ。利用者のみなさんを会場となるDANCE BOXへと誘いました。ソケリッサが何者なのかを伝えるために説明したり、音楽もない中、その場で踊ってみせたり。そうしているうちに、開演から20分おしでショーイングがスタート。
上田假奈代 はっぴーの家にソケリッサのみなさんと迎えにいったら、1階のロビーにいらっしゃるおばあちゃん、おじいちゃんたちとやり取りが始まって、ダンスを披露することになったりして。そしたら、車いすのおばあちゃんが踊りにあわせて一緒に手を動かしてくれて、一方でちょっと怒っているおばあちゃんもいて。キッチンでごはんの準備をされてるスタッフの方は、「私もキッチンから出て踊りたいー」って叫んでいました。そのみなさんが生きてる感じが今日の舞台と重なって、滲んでいて、すごく循環しているなというのを感じました。(ショーイング上演後のトークでの言葉より)
そして、はじまったショーイング。
上田假奈代さんがよどみなく言葉をつむぎ出すなか、青いブルーシートの向こう側でおよそ20人の出演者がはいつくばるようにして、背中を見せながら何かを描いているよう。その中からひとり、ふたりと立ち上がって動きを見せます。パフォーマーの動きはときに假奈代さんの言葉に触発されるようで、ときに言葉がパフォーマーの動きに導かれるように変化していき、だんだんと假奈代さんの言葉は即興で発せられていると気づかされます。
みながうずくまって描いていた巨大な墨の作品がバトンで吊り上げられて、舞台が転換。即興の集団制作だったにもかかわらず、きちんと準備されていた舞台美術のようにも見え、迫力十分。
ウィンナワルツが流れるなか、全員がばらばらに動き回っていたのが組みになり、集団になり、と、だんだんまとまりを見せはじめます。音楽が寺尾紗穂さんの曲へと変わり、最後は、出演者がペアになり、踊っている人とそれ照らすために懸命に自転車をこぐような動きを見せるなか、突然ぱたりと舞台は終わりました。
ソケリッサ代表のアオキ裕キさんをはじめ、ソケリッサのメンバー、上田假奈代さん、ワークショップ参加者全員が舞台に戻って、思い思いの場所に座りこんで、そのままトークの時間となりました。
ソケリッサのメンバーがひとりずつ自己紹介。
ソケリッサに入った経緯や新長田の印象についても、ひとりずつ語られました。
手前にトークゲストの首藤義敬さん。
首藤 今回、私はまったく前提知識を入れずにのぞんだんですけど、一昨日にソケリッサさんがはっぴーの家に挨拶に来られて、見たら屈強な男性8人くらいで、これは挨拶というより出入り感がすごいなと(笑)。彼らが踊ると聞いて、どんなバイオレンスな舞台になるのかなと思ったら、予想外にすごくほっこりとした舞台で面白かった。印象的だったのは、上田假奈代さんが何度も口にした「あの頃」という言葉…「あの頃を探してる」とか。僕らは仕事柄、いろんなことがあった人たちと暮らしていて、その人たちから普段は聞くことができないけど、たまに出てくる“あの頃の話”というのがあって、そういう風なことにも照らし合わせながら今日の舞台を見ました。
トークの後半、会場から出た感想とそれに続くコメントをご紹介します。
会場から いわゆるダンスのステージは「私を見て」って自分をアピールする気持ちを強く感じるんですが、ソケリッサのみなさんは相手との距離感や、相手の動きと自分の動きとか、一人ひとりバラバラにやっているようで実はすごく空気を大事にしている感じがして。ひと言で言ったら、みんな愛しあってるんだなって(笑)。とにかくエネルギーの塊だと感じました。
アオキ 僕たち、愛しあってます(笑)。自分はおじさんたちの身体を必要としているし、おじさんたちも自分を利用してくれてるし、お互いにやりたいことがつながっているような気がしています。
自分は便利ななかで生活をして、夜も恐怖を感じることなく寝ることができて、そういう中で人前でパフォーマンスをするときに、どこか世の中と通じる感覚が麻痺してるんじゃないかなって。路上生活をすることって、常に生きることに意識を向けざるをえなくて、やっぱりそういう方たちの身体には自分にないものが絶対にあると思う。そう思って、おじさんたちに声をかけて、おじさんたちの動きに自分はすごく学ばせてもらっています。
こいそのふなばんまつ(ソケリッサ) 路上生活者というのは、人前にしゃしゃり出て、視線を浴びるようなことはなるべく避けています。目立つことで石を投げられたり、危害を加えられる可能性があるので、なかなか人前に出るという積極性は持たないと思うんです。ただ反面、人が前を通っていてもかまわずに寝ていたり、ひと目にさらされることに免疫みたいなものがあって、人前でも臆さずにやれる土台、というか背景があると思います。私自身の話として、公園で寝ていたとき、ダンボールに火をつけられたんですね。足もとのほうが燃えさかっているときに気がついて、飛び出してなんとか助かったんですけど、そのときもう60歳をすぎていて、自分の人生を振りかえりました。今まで逃げる人生ばっかりで、どこに行っても長く続かないという感じで暮らしてきたので、自分には何があるのかなって何もなくて、ただ身体ひとつあるだけ。だから、この身体を使い切るというとおおげさですけども、そう考えてソケリッサを続けてきたんです。
まさに「ぐちゃぐちゃのゴチャゴチャ」をほんのひととき劇場に出現させた、今回のワークショップ&ショーイングとなりました。
障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクトです。2019年に神戸市長田区で劇場を運営するNPO法人DANCE BOXにより始動しました。舞台芸術を軸に、誰もが豊かに暮らし、芸術文化を楽しみ、表現に向かい合うことのできる社会をめざす、多角的な芸術文化創造活動です。