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レポート|介護するからだ、育児するからだ、かしこい身体の驚きと発見

2019.08.25

2019年8月25日(日)

出演 細馬宏通(早稲田大学)、福角幸子(車椅子パフォーマー・語り部)

進行 横堀ふみ(DANCE BOX)

 

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すこし開演時間が遅れて、まだざわっとした場内、気づけば半円形に置 かれた客席の前方、ステージ前に細馬宏通さんが座っていた。スネアドラムを前にして。 そして、片手を大きく上に掲げてから、その手をスネアへと打ち下ろす。和鼓のような湿った音。あれ、始まったのか!?

アナウンスも何もないため、この時点でもまだ、マイクチェックのよう な段取りの時間なのかと、客席の全員が開演したとは了解していない。 何度かスネアへと手が打ち下ろされた後、客席の左端にいた福角幸子さ んが動きはじめる。 そもそも、この日集った客席のほとんどがトークが始まると思っていたはず。そんな予測を裏切るようにして、ふたりのパフォーマンスからスタートした。

 

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ふたりのパフォーマンスは約15分ほどで終了。

その後、舞台の様子を撮影していた映像をその場でパソコンに取りこみ、ステージに投影しながら、パフォーマンスを振り返るトークが始まった。 終わったばかりのパフォーマンスの映像をコマ送りしながら、そのときどきの動きや考えていたことを言葉にして分析していく作業は、細馬宏通さんが専門とする人間行動学がどういうものなのか、その一端を示していた。

そのトークの冒頭部分を以下に収録する。

 

細馬 今日は僕もパフォーマーの当事者だったので、距離をおいて話すことが難しいんですけど、このパフォーマンスがいつから始まったのかをまず見ていきましょう。舞台袖があれば、みなさんの見えないところ にパフォーマーがいて、出てきたら舞台が始まるということですけど、さっきは福角さんが最初から客席の端に、いつもの感じで座っておられましたよね。どうしようかなと思っていたら、ちょうどお友達の方かな、客席に入ってこられて、福角さんに挨拶に行かれました。その様子を見て、これは僕の主観ですけど、なんとなく「もう始まったな」と思いました。福角さんがお友達と話してるのを見て、もう始まったことにしようと思ったんです。勝手にお友達の方を巻き込んだ形なんですが(笑)。 で、お友達の方が席に戻られて、これから始まるのかなという空気になりました。この空気の変わり方が僕はすごく好きなところです。パフォーマンスが始まるぞって雰囲気を察するときが、パフォーマンスのハイライトだと思う。即興で何かをやるときって、何もない白紙、まっさらな大地から始めるわけじゃなくて、みなさんの下地、場があって、それも即興のひとつの要素なんです。だから、今日は舞台を映像に撮ってもらいましたけど、始まったときから撮るんじゃなくて、そのちょっと前から撮ってもらうようにお願いしました。福角さんは今日、いつ始まったような感じがしましたか?

福角 先生が前に出てこられて、私はいつ出ていこうかなと思ったけど、まあ、自分の行きたいときでいいやって感じで前に出ました。できたら下へ降りるはずだったんですけど、楽器に魅せられてしまって…。

細馬 なるほど、車椅子を降りる選択肢も持ってられたんですね。即興って白紙で始めるんじゃないと言いましたけど、相手がいるから相手に任せたり、相手のやることが手がかりになったりもします。ただ始まりは結構難しくて。福角さんが出るまで待つか、僕が先に出るか。いろんな可能性があって、どっちも動かないで5分くらいジリジリするのも面白いかと思いましたけど、わりとせっかちな方なので、自分から出ちゃいました。ここから最初に音を出すのって勇気がいりますよね。パフォーマンスや 即興って時間芸術だから、やったことは消せません。音を出せば、時間の中では消えていくけど、音を出したってことは取り消せない。なので、僕としては最初の音を出すのは、ちょっと待ちました。あと、僕が 手を振りかぶって、振り下ろそうとしたら、見ている人は太鼓を叩くって予想するやないですか。それはいっぺん裏切っておこうと思って、手を途中で止めました。もしも福角さんもこっちを見てるとしたら、そのように予測すると思うので、それを裏切りたい。パフォーマンスとしては、なかなか面倒くさいことを始めてしまったと思いましたけど(笑)。しかも、手を振り下ろしたこのときに僕、福角さんの方を見るんですよ。ずるいですね(笑)。自分が何かをし終えて、相手を見ると、見られた人は「次は私の番!」ってドキっとします。ここで僕は、福角さんを見ちゃった。福角さんはどうでしょう、次は私みたいな感じありましたよね。

福角 始まったと思ったけど、楽器のところまではまだ行かないでおこうと思って。自分のまわりを叩いたら面白いかなと思って、そうしまし た。

細馬 車椅子でしゃーっとこちらまで来られるかと思ったけど、来ませんでしたね。

福角 期待を裏切ろうと思って(笑)。

細馬 太鼓を叩こうとした僕が福角さんを見て、そしたらみなさんも、 なんとなく福角さんの方を見るでしょう。人に視線を向けるだけで、僕らは揺さぶられてるんですね。なので、ブザーも鳴ってないけど、これは完全に始まったという感じがありますね。そして、福角さんが車椅子を叩きはじめる。そしたら、車椅子の車輪と太鼓とが同じもの、対応するものに見えてきました。どちらも丸いから。僕、こういうのが好きなんですよ。自分では太鼓と車椅子が同じものだって、まったく考えてなかったので。でも、福角さんが車椅子を叩いた瞬間に、お!とそのことに気づく。でも、意外と福角さんは車椅子をずっとは叩かないんですよね。その後、身体を叩きはじめて。

福角 自分にとっての楽器は何かなって考えてみて、こういう行動をとりました。

細馬 これはちょっと大変だなと思いましたね。福角さんにとって身体の延長みたいな車椅子を叩いてるのに対して、僕にとって太鼓はまだよそよそしいもの。今日、ここに来てから、「何かありますかね?」って出てきた楽器が太鼓だったというだけなので。福角さんと車椅子という最強の組み合わせに対して、僕と太鼓は最弱な組み合わせで。

福角 そんなことないですよ。

細馬 僕はそこはあきらめるところから始めて、でも、一応、叩き続けとこうと思って。そしたら、僕が太鼓を叩いたら、福角さんが車輪や身体を叩くという関係ができました。でも、このままでは福角さんに対し て勝ち目がないと思ったので、僕は福角さんの方を見ないことにしまし た。視線をはずした。そしたら、ここで福角さんが前に出てきましたね。なんでこのタイミングやったんですか。

福角 自分の車椅子とか身体ばかり使ってたら、私はそれだけかなって思わそうだったので、先生の前にある太鼓を叩こうと思って。

細馬 そうでしたか。ここで福角さんがまた僕の視界に入ってきて。けどやっぱり、福角産の車椅子の方が動きがあるし、緊張感のある乗り物だと見えました。それに対して、僕の太鼓はあまりにものんき(笑)。 そこで、はたと気づいたんですけど、この太鼓も僕が思い切り叩いたら揺れるなって。特に横から叩いたらめっちゃ弱い。コレで、僕の太鼓が ちょっと車椅子に近づいた気がしました。しばらくは、太鼓を楽器というよりも、不安定な乗り物だという扱いにして、脚が3点あるうちの2点 とか、1点だけで立たせて、叩いたりして。……(分析トークはこの後 も続く)

 

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パフォーマンスとその分析の後、5分の休憩を挟んで、細馬さん、福角さんによるトークがあらためてスタート。

子どもを持つ客席からの声に対して細馬さんが人間行動学の観点から答えるという、「お悩み相談室」のような時間を経て、話題は福角さんの子ども時代の話に。

 

細馬 福角さんは子どもの頃、どんな子どもだったんですか。

福角 消極的でおとなしかった。

細馬 人前でいろんなことをするようになったのはいつくらいから?

福角 18で家を出てるので、自分からモノを言わないとどんどん置いていかれるから、言うようにしてたけど、言語障害がきつかったんで、今のようにはしゃべれなくて。25歳くらいで人に誘われてやってみて。けど、まだ自分からはっきり言うことはなかった。

細馬 人前で踊ることよりしゃべりの方が先ですか。

福角 自分が踊ったりしゃべったりするのは嫌いで、それで、語りの方が先でした。それからダンスボックスと出会って、「循環プロジェク ト」で踊りをやってみないかって。まさかねと思いながらやってみたら、意外とはまってしまって。自分でもできるんだなと。なんでもやってみないとわからないですね。

細馬 そうなんですよね。自分の頭のなかに完成されたものがあって、それをいきなり始めるというのはレアなことで、実際に身体を動かしてやってみないと、自分で何ができるかなんてわからない。今日の即興かてそうですけどね。

福角 そうですね。

細馬 僕と福角さん、今日が初対面やし、事前に話したのも5分10分くらいで。

福角 そうですね。私もあまり前知識を入れたら固定観念が出そうなので、30分前に先生のことをネットで調べて、見させていただきました。

細馬 そやったんですか(笑)。人がなにかを始める理由って、意外と自発的に形が決まってやるというものじゃないですよね。

福角 ダンスができても、即興が多くて、どうしたらいいのかなと思ってたけど、これも何回もしてたらどないかなるもんですね。

細馬 そう、即興って何回もやってるとあまり用意しなくていいなっていうのがわかってきます。つまり、技術を磨いて最高のものをお見せするというのもひとつの態度ですけど、そうじゃなくて、今、この場で起こってることをよく見ると、そこでは必ず僕らの日常と同じようなことが起こってる。たとえば、ペットボトルを指差したら、人はペットボトルを見る、とか。あるいは、誰かに視線を向けたら、その人が次、アクションを起こすことが期待されるとか。そんなことが即興の重要な要素になってると思います。だから、極端なことをいえば、赤ちゃんでも即興はできると思いますよ。赤ちゃんも社会的なことがちょっとはできるから、そこを使えば。

横堀 社会的なことというのはどんなことでしょう。

細馬 赤ちゃんだって、機嫌が悪くなって誰も自分の方を向いてなかっ たら、ワーッて泣き出して、みんなが寄ってきたらシメシメって(笑)。そこまでは思ってないでしょうけど、赤ちゃんも人の視線は感じるし、目が合うとこっちが恥ずかしくなるくらいこっちを見ますよね。だから、僕は、赤ちゃんと目を合わせるのが楽しくて、電車に乗っ てるときに赤ちゃんがいてこっち見てくれたら、すごくガン見します (笑)。

横堀 びっくりしはるでしょうね、赤ちゃんも(笑)。

 

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障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクトです。2019年に神戸市長田区で劇場を運営するNPO法人DANCE BOXにより始動しました。舞台芸術を軸に、誰もが豊かに暮らし、芸術文化を楽しみ、表現に向かい合うことのできる社会をめざす、多角的な芸術文化創造活動です。

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