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レポート

【スタッフ見せレポート|竹田真理】トライアル・ダンス公演『 未見美(Mi-Mi-Bi)』

 

▶︎トライアル公演概要はこちらから

 

 

●2月25日 スタッフ見せ 於:ArtTheater dB KOBE

 

いわゆる「スタッフ見せ」とは、公演本番を支えるテクニカル・スタッフや舞台監督に、ここまで作ってきたダンスを見てもらい、照明プラン、音楽を入れるタイミング、舞台の設営、衣装、小道具の扱い等々、ダンス以外の要素について打ち合わせを行うこと。身体レベルで振り付けてきたダンスを舞台作品として立ち上げていくための重要なプロセスだ。

 

スタッフ見せの作業は、舞台上で一組ずつ作品を通して踊り、その場でダンサーとスタッフが打ち合わせを行うという手順ですすむ。音楽はすでにほとんどの人が使用曲を決めているので、主に音入れ・音消しのタイミングを音響の和田真也さんと確認する。照明については初めて自分で検討する人が多く、照明スタッフの野村洋子さん、茂木紀恵さんが各ダンサーにインタビューしながら実現したい作品像を引き出していく。「何かイメージをもっていますか?」「暖かい感じ?」などと質問し、作品内容やテーマを確かめる。場面ごとに色を変えたい、ピンスポットを使いたいなどの要望も聞きとっていく。「お任せします」と預けてしまう人もいるが、クリエーションの過程に付き添ってきた協働メンバーから「ここはブルー系にしたいと言っていたでしょう?」と背中を押される場面もあり、言葉のやりとりを通してダンサー自身にも漠然としていたイメージがクリアになっていく。逆にスタッフの側から、手の動きが印象的なのでピンスポットを当てよう、とか、車椅子のパフォーマンスに迫力があるのでシンプルな照明で見せよう、といった提案もなされる。

 


 

舞台監督の北方こだちさんは特に背景の幕について、ホリゾントにするか黒い幕を引くかを確認していった。ホリゾントなら広い情景を、黒幕なら深い内面を表すのに相応しく思えるが、衣装との対比、照明とのバランスも考慮する必要がある。背景を黒、衣装も黒を希望する人がいたが、偶然黒い服を着ていた別のダンサーが舞台に上がり、黒幕を引いて照明を入れ、客席からの見映えを確かめるといった場面もあった。照明の色に合わせて衣装を決めたいという人に対しては野村さん、茂木さんが「こちらに合わせるのではなく、ぜひ着たいものを着てください」と言う。「どんな色でもいいんですか」と尋ねるダンサーに「もう、どんなものでもOK!」と頼もしい言葉で応えていた。

 

いくつかの作品にはダンサーが床に横たわるシーンがあるが、客席ひな壇の前の平土間席に並ぶ車椅子の人から見えないことがないよう注意する必要があることが分かった。また情報保障として、字幕を映像で投影するか手書きのスケッチブックを掲げるかなど、諸々の検討すべき事項が次々と洗い出されてディスカッションされた。

 

視覚障害のあるダンサーでは、板付き(最初から舞台上に出ている)か、舞台袖から歩いて出るかにより介助の人の対応を決めておく必要がある。中途失明者の武内美津子さんはこの日初めて舞台で通しを行ったが、開始時の所定の位置に立てるよう、西岡樹里さんと内田結花さんが武内さんを左右から挟むようにして付き添った。また安全面から、暗転ではなくブルー転にする案が出るなど、事故のないよう、またダンサーが不安を感じることのないよう、細やかな配慮のもとに上演、稽古、作業が運ばれていく。

 

作品ごとの要望や条件が整理されると、テクニカル・スタッフと舞台監督は当日のプログラムの上演順を話し合った。全作品の所要時間はこの日の計算で96分。転換の時間や休憩を入れた公演全体のボリュームを把握し、各作品のもつイメージと条件を考慮してプログラムの流れを作っていく。

 

いっぽう、出演者と協働メンバーはゲネプロと本番までの稽古日程の調整をする。まず全体練習日を決め、個々のスケジュールを突き合わせる。ヘルパーの付き添いの日程との調整を要する人もいて、8人の予定を組むのは大変な作業である。稽古場も数か所に分かれており、使える時間が限られている。協働メンバーの内田結花さんがあらかじめ全員のスケジュール聞き取りを行っており、文さんがホワイトボードに一覧にしていく。本番まであと10日。クリエーションの内容についてメンバー間による真剣な話し合いも行われていて、一段と熱の入った稽古の日々へと入っていきそうな様子である。

 


 

テキスト|竹田真理 (Takeda Mari)

ダンス批評。関西を拠点にコンテンポラリーダンスを中心とした取材・執筆を行う。毎日新聞大阪本社版、舞台芸術評論紙「Act」ほか一般紙、舞踊専門誌、公演パンフレット、ウェブ媒体等に寄稿。ダンスを社会の動向に照らして考察することに力を注ぐ。国際演劇評論家協会会員。

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障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクトです。2019年に神戸市長田区で劇場を運営するNPO法人DANCE BOXにより始動しました。舞台芸術を軸に、誰もが豊かに暮らし、芸術文化を楽しみ、表現に向かい合うことのできる社会をめざす、多角的な芸術文化創造活動です。

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