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レポート

インタビュー|「オンブラ・マイ・フ 」をたどる 出演者から見える風景

2019.10.13

 
家と踊る ふたりのダンス「オンブラ・マイ・フ」
砂連尾理+寺田みさこが約20年前につくった5分ほどのショート・ピース。
この「オンブラ・マイ・フ」は、ご自宅で、パブリックな施設の家のような場所で踊られます。
 
2019年8月20日に砂連尾さんと寺田さんが掘り起こして、9月15日に、5組のダンサーの方々に、そして住人の方々に、合同で振り移しを行いました。ダンサーの組み合わせは、姉妹、親子、夫婦、始めての組み合わせ、住人の方々は、夫婦、親子、同僚、友人などと様々です。
 
本番が迫ってきた中、振付家および出演者の皆さまに、二つの質問を投げかけてみました。公演とテキストと併せてお楽しみください。テキストは随時更新していきます。  (最終更新:2019年10月8日)
 
 
▼ダイジェスト映像 下町芸術祭2019「オンブラ・マイ・フ」


 

振付の砂連尾理さんと寺田みさこさんへの質問

 
 砂連尾理さん  ※10月13日&14日出演
 
質問1:「この度、約20年ぶりの振り起こしを行いました。その振付を踊ったときの身体が感覚したこと、思い出しことなどありますか?」
 
この振りを作ったのは今から約20年前。ある作品のエンディングの踊りでした。
その作品名がなんだったのか今では思い出せないのですが、振付のイメージは死を迎えた老人が走馬灯のようにそれまでの人生を思い返していることをイメージして寺田さんと一緒に振付けていたことはよく覚えています。その時は私も寺田さんもまだ若く、自分自身もそうですし身近な人も死から遠い人ばかりだったのに、何故だかその時はそんなことを思っていました。今回、この「オンブラ・マイ・フ」の20年ぶりの再演及び他のダンサー、新長田住民への振り渡しの依頼のメールがダンスボックスの横堀さんから届いたのは今年の5月17日で、その日は私の父が亡くなる前日のことでした。その2ヶ月後の7月には父の後を追うように母も旅立ってしまい、私は両親を立て続けに見送った後、寺田さんとこの踊りの振り起こしを行いました。20年前の踊りだったこともあり、ところどころ振付を忘れかけていたのですが、寺田さんとあーだっけこうだっけと思い出しながら振りを起こしてみると、その踊りには両親と過ごした最後の時間や、葬儀で二人を見送ったことを想起させる振りがところどころに散りばめられていました。まるで20年前に今回のこの再演が決まっていたかのような踊りに思えてなりませんでした。そんな踊りをこのタイミングで横堀さんから依頼されたこと、またその踊りをここ12年間デュオ活動を休止していた寺田みさこさんと踊ることになるなんて!でもこの偶然はきっと必然で、この踊りはそんな運命的なダンスだったのではないかと今では感じています。そうそう寺田さんと一緒に踊るのは確かに久しぶりなのですが、そんなに踊っていなかったっけと思うぐらい違和感がなく、現在の私の身体は過去にタイムスリップしているかのように喜んで踊っています。20年前にまるで未来からの身振りを受信したかのような踊りを今に再現させ、寺田さんとの12年ぶりのダンスで過去の身体に出会い直す今回の「オンブラ・マイ・フ」、そんな風に思うと、今という時間に未来と過去を交錯させながら振りは同じなのだけれど、きっと新たな「オンブラ・マイ・フ」に生まれ変わるのではないかと感じています。
 
 
質問2:今回、その振付を、ダンサーや住民の方々に振り移しいたしました。その過程で感じた事、印象的だったことなど、教えてください。
 
今回の踊りはゆっくりしたテンポに振りもそれほど多いわけではないのですが、その間の取り方や息づかいが特徴的な踊りになっています。なのでこの踊りは振りのその先の空間、時間、また振りと振りの合間に見えてくるものがたくさんあって、むしろ振りだけでは見えてこない、各々の佇まいや身体の想い、それはダンサー、住民にかかわらずそれぞれの人生そのものがうっすら浮かび上がってくるのだなと感じました。
 
 
 
 寺田みさこさん  ※10月13日&14日出演
 
質問1:「この度、約20年ぶりの振り起こしを行いました。その振付を踊ったときの身体が感覚したこと、思い出しことなどありますか?」
 
今回振り起しに当たり、なんと!記録映像が見つからず、決して良いとは言えない記憶に頼らざるを得ない状況からのスタートとなりました。いくら短い作品とは言え20年も前のこと…、さすがに再現は不可能だろうと半ば諦めながら取り掛かったのですが、深く沈んだ記憶を撹拌し、浮かび上がってきた断片を一つずつ掬い取るような作業を続けているうち、全体の輪郭が見えはじめ、結果的には恐らく95%程度は再現できた(?)…のではないかと思います…もはや確かめようはないけれど…。
この振付は、いくつかの日常的な身振りの羅列によって成り立っています。一旦文脈から切り離した身振りを、音楽の間合いにのせてランダムに繋ぎ合わせることで、一つ一つの身振りの意味や解釈の幅を広げ、観客が各々の物語を想起することを促すような作りになっているのではないかと思います。この手法は、後のジャレミサ作品でも多く見られますが、今思えば、オン・ブラ・マイフが最初の試みだったかもしれません。久しぶりに踊ってみて、振付そのものの拙さや間合いの取り方などへの違和感は当然ありましたが、20年経った今、私の中でもまた新たな物語が見えてきそうな予感がしています。そして久しぶりの共演となる砂連尾さんですが、不思議なくらいに変わらず自然に私の隣に存在しています。ホントに不思議です…(笑)。
 
 
質問2:今回、その振付を、ダンサーや住民の方々に振り移しいたしました。その過程で感じた事、印象的だったことなど、教えてください。
 
この作品はとても行間の多い作品で、当人が意識するせざるに関わらず、振りと振りのあわいに自ずとその人の佇まいが滲み出てくるようです。住民の方々は、日頃自身の身体に対してそれほど意識的ではないはずなので、無意識から溢れ出す人となりや関係性が、ものすごくストレートに現れて面白いです。一方ダンサーは、身体及び時間や空間に対してより意識的なはずなので、逆に意識の仕方やその質に様々な味わいがあり、また、意識と無意識の狭間で揺れ動く感じも、これまた面白いです。ワークショップの最後に、各チームのパフォーマンスを一気に見る機会を得られたのですが、いわゆる上手いだとか下手だとかいう単純な比較基準は出る幕がなく、多様性に満ちた超贅沢な時間でした。
 
 

 
 

ダンサー、住人の方々への質問

 
質問1:「オンブラ・マイ・フ」の振付に取り組んで、感じていること、こう踊れたらいいなぁと思っていること、ありますか?
質問2:今回、同じ振付を、ダンサーや住民の方々に振り移しいたしました。その過程で感じた事、印象的だったことなど、教えてください。

 
 福岡まな実  ※10月13日出演
 
1:「オンブラ・マイ・フ」の振付に取り組んで、感じていること、こう踊れたらいいなぁと思っていること、ありますか?
映画みたいに踊りたいなぁと思っています。
 
2:表現するということへの希求って皆同じなんだなぁと改めて思いました。
 
 
 福岡さわ実  ※10月13日出演
 
1:とりとめのない思考やあったことの記憶や体感が時系列やロジックに影響を受けずにころころと移り変わっていくような感じです。1つの身体から次に変わる時、摩擦ゼロ、執着ゼロ、後ろ髪引かれることもなく潔く軽やかにできたらいいなと思います。実は私はオンブラマイフの曲にとても思い入れが強いので、だからこそ余計にねばつかないように気をつけてポーカーフェイスを保ちたいです!
 
2:住民の方々への振り写しには参加できませんでしたのでわからないんですが、ダンサーへの振り写しを見ていて、振りがシンプルなだけにかえってそれぞれのデュオの関係性がこんなにも鮮やかに浮かび上がるものかとはっとしました。身体言語は思考の解釈が間に入らないので直接的に伝わりますね。
 
 
 
 川上瞳  ※10月13日出演
 
1:とにかく音楽が気持ちいいので振り付けを自分のものにできるくらい覚えて音楽を味わいながら踊れるようになるのが理想です(^^)
 
2:練習の最後にそれぞれが踊るのを見て本当に面白くて面白くて何でも参加できるものはしてみるものだなぁと思いました。その後、どう仕上がったか、とても気になるので、2軒予約しました(^^)
 
 
 
 松縄春香+息子  ※10月13日出演
 
1:まだ、言葉を話すことも歩くこともできない、息子と一緒にデュオを踊る、ということで、恐らく、当日は頂いた振付をそのまま踊るということはできないので。いや、ユニゾンなのにどうやるんだろう、と。どきどきしながら、楽しんでいます。息子を見ていると、生きてるだけでまる儲け、と思います。赤ちゃんはすごい。誰も彼も、関わった人を幸せにしていくパワーを持っているなあ、と最近感じていて。生きているだけで素晴らしい。今回、住人として出演の依頼があったということは、そこに生きている人々の姿、がきっと見えてくるんだなあと思うので、気負わず、焦らず、今のわたしと息子で、踊る時間を過ごせたらいいなと思います。
 
2:先日、出演する住人の方々とリハーサルをして、初めて集ったのですが、皆さんとても面白いです。親子やら夫婦やら、上司と部下やら。70代のおじいちゃんとか、すんごいピュアで。同じ振付なのに、人柄やそのふたりの時間が味わい深いなあと。ふたりの紡いでいく関係性が、とても素敵でした。この踊りが、それぞれの家・場所で踊られるときに、どんな時間が生まれるのか楽しみです。
 
 
 
 サイトウマコト  ※10月14日出演
 
1:子供から大人に老人になって行く過程をモチーフにした踊りなのかと感じました。空気のように漂うように踊れたらいいなと感じました。
 
2:振付者、ダンサー、住人とそれぞれの身体は違うかもしれませんが、人間として生まれ育った家庭で「共通の意識」は存在すると思います。それは死んだ後に残る「爪痕」もしくは「魂」と言っても良い不変の「宿命」のようなものかもしれません。印象に残ったのはビデオでしか観てませんが、「忘れ去られて行く存在」を椅子から離れて行くお二人に感じた事です。
 
 
 斉藤綾子  ※10月14日出演
 
1:短くてシンプルな振付だからこそ、いろんなことが見える時間だなと感じました。砂連尾さんみさこさんの20年前の振付だということや、おうちをお借りすること、わたしと父との関係性、観てくださる方がいることなどを身体に蓄えて踊りたいです。
 
2:ダンサーにとってはそこまで苦労せずとも覚えられる長さの振付ですが、住民の方々にとっては、まず覚えるということがとても大変な作業だと思います。ですが、だからこそ振付が渡されてすぐに1組づつ前で踊ってもらった踊りは格別でした。全てを総動員させてパンパンになった身体は素晴らしい。その身体に対してダンサーのわたしは何ができるだろうかと、あの時からずっと考えています。いい踊りにしたいです。
 
 
 
 文原梨花  ※10月14日出演
 
1:今回のオンブラマイフを娘と参加することが、母としてとてもうれしいです。中学生の娘は、学校行事の朝練やテスト、週3日あるダンスレッスンなど日々忙しく、オンブラマイフの練習は数回しかできていません。でもその数回の一緒に取り組める娘との時間は、私はとても穏やかな気分になれます。オンブラマイフの練習で”ママ、こうやで!”と指摘されることさえうれしい母です。娘の成長を感じながら、娘との貴重な時間を楽しんでいます。
 
2:見る人や踊る人など同じ振りでもその人によって感じ方が違うところが印象的です。私が感じるオンブラマイフは、日常の子供との生活です。
 
 
 
 G邸 フーフは、タニン(妻)  ※10月14日出演
 
1:今回夫婦で踊るという大きなテーマ。カッコつけず力まずありのまま自然体の夫婦の姿を表現できたらいいなあと思っています。結婚して15年の月日を感じながら踊りたいです。
 
2:振り付けの先生が練習の時におっしゃられた言葉「皆さんと踊るプロは逆にプレッシャーがある」プロの方々と交わりながら各チームの踊りを見る中でそれぞれの物語に吸い込まれている自分がありました。
 
 
 
 垣尾優  ※10月19日出演
 
1:毎日一回ふたりで踊ることにしています。自分にとってなんの意味も無かった振付が、踊るごとに、ちょっとずつ時間をかけるごとに、じわ〜と染み入るような感じで、生活の小さな一部分に。ほんのりと意味めいたもの、微かな感情のようなもの、新たな謎、思いがけない昔、そういうものが浮かんでは消え、ふたりでつくっているのは時間なのだなあと、毎日踊る微妙な違いがなかなか面白いです。じゃれおさんがおっしゃってましたが、思いがけず今と繋がっているのを発見する、それは振付の良さというか作品化して形にされたものの面白さのひとつだなと思います。今、分からないものが、未来のいつか、自分が変わった瞬間理解できる。うん、教育だ、人生だ。基本的にダンスは未来に向かってのもの、と思っています。私のダンスのテーマですが、より深い時間に存在すればするほど、遠くへ行ける、拡がる、ダンスの過去や未来を行き来するようなタイムマシンのような性能が上がる、と思っています。ふたりという事で、事はより複雑ですが、ふたりならではの、その時間に出来るだけ深く、後で分かるだろうとよく分からん何かも抱えながら、踊る事でそういう深い時間に存在する事を目指しています。観客の皆さんもそういう時間に誘えたら嬉しいです。また関係無い個人的な事ですが、別の作品でもオンブラマイフで踊ることになり驚きました。シンクロ能力上がってきました。
 
2:色んな人の踊りを観て、素直に面白いなあと思いました。duoで振付というのが、その面白さを際立たせてたと思います。勿論、じゃれみさの振付の質ありきで!同じ日にダダダと連続でみんなの踊りを観れる公演も面白そうだなあと思いました。東京のハイシティな所等歩いていると、踊り大丈夫かな、俺大丈夫かなとなるけれど、楽しそうに踊っておられる住民の方など見ると踊り好きな人もいるんだと嬉しいです。
 
 
 
 伊藤愛  ※11月2日出演
 
1:震災の翌年に出身地愛知からきて、神戸で生活をし、舞踊活動をしています。地元の皆さんの踊りや佇まいをみていて、その人の今や背景を想像します。まるで人生が見えてくるようです。わたしもこの地で生活するひとりとして踊り、わたしのいまの踊りを踊りたいと思います。
 
 
 ネコ ザ ゴースト  ※11月2日出演
 
1:まだわからないです。ただ、なんというか「場」というか「空間」というか、そこにいる人含めてそんなのに、何か自分が曖昧になって委ねられたらいいな。とかはぼんやり。
 
2:みんな、魅力的だなぁ。見ていてずっと飽きないなぁ。
 
 
 
 田村みくり  ※11月3日出演
 
1:初めてこの曲「オンブラ・マイ・フ」を聴いた時、神秘的で、きれいな音と声で、とても魅力を感じ、ぜひこの曲で踊りたいと思いました。
今回、ダンサーとして選んでいただき、光栄に思っています。私は先天性の病気で普段から車いすを使っていますが、身体の動かせる部分全てを使って、「オンブラ・マイ・フ」を私らしく表現したいと思います。
 
2:砂連尾さん、寺田さんから振付に対する想いを直接聞いた時、今までのダンスに対する常識を良い意味で覆されました。
コンテンポラリーは奥が深いということを改めて感じました。また、振り移しの最後に他のダンサーのみなさんのダンスも見せていただき、それぞれの個性があふれるダンスで、素晴らしかったです!
 
 
 田村興一郎  ※11月3日出演
 
1:部屋、ダンサー、自己の体。この3点が支えている空間設計を意識して踊ります。心地良い空間に、この短すぎる時間。その一瞬をどれだけ大切に心を捧げていけるのか、どこまでも試してみたいです。
 
2:それぞれ新たな楽譜がそこで確立したこと、目の前ではっきり見えた事が感動でした。それはオンブラマイフという振付の持つ力が、そこに発揮されていたことだと感じます。美しくかつ不器用で、どこか少し儚い。それを感じたのは紛れもなくこのダンスに秘めているものであり、振付が独立して他者の体へ移り住んだという美の”譜”であると思いました。

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こんにちは、共生社会とは

障がいの有無、経済環境や家庭環境、国籍、性別など、一人一人の差異を優劣という物差しではなく独自性ととらえ、幾重にも循環していく関係性を生み出すことを目的としたプロジェクトです。2019年に神戸市長田区で劇場を運営するNPO法人DANCE BOXにより始動しました。舞台芸術を軸に、誰もが豊かに暮らし、芸術文化を楽しみ、表現に向かい合うことのできる社会をめざす、多角的な芸術文化創造活動です。

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